概 要
Libera Single Pass Hは、直線加速器における重粒子ビーム信号を処理するために設計されたシステムです。アナログ信号処理を経て、デジタル化されたビームの振幅と位相データが抽出され、最終的にリアルタイムでビームの位相および位置情報が得られます。PCIeインターフェースと最新のFPGA技術を活用し、低レイテンシの制御アルゴリズムやデータ処理を実現します。また、最大20の入力チャネルに対応し、精密なビームモニタリングを可能にします。
メリット:
・ 高精度ビーム測定: サブミクロンレベルの位置測定精度と位相精度を実現
・ 低レイテンシ処理: 高速なデータ処理と制御アルゴリズムによるリアルタイムモニタリングが可能
・ 拡張性の高い設計: 最大20チャネル対応で、多様な加速器システムに対応。
・ 柔軟なインターフェース: GDXモジュールやタイミングモジュールによる通信や同期をサポート
仕 様
Libera Single Pass Hの仕様には、ビーム信号のリアルタイム処理を支える強力なハードウェアと、複数のデータインターフェースおよびコネクタ仕様が含まれています。
◆ハードウェア仕様とコネクタ仕様
入力チャネル:
・ 20チャンネル(4チャンネル×5モジュール)+ 1つの基準チャネル
・ 各モジュールで5つのRF入力を処理し、1つのチャンネルがRFリファレンス信号として仕様
ADC(アナログ-デジタル変換
・ 16ビット解像度、最大130 MHzのサンプリングクロックで、高精度なデータ取得
・ ビームRF信号の振幅と位相情報をデジタル化して処理
メモリ:
・ 各モジュールに最大8 Gbitsのメモリを搭載し、リアルタイムのデータ処理や一時的なデータ保存が可能
インターフェースとコネクタ:
・PCIeインターフェース: 高速データ転送を実現するため、PCIeベースのアーキテクチャを採用。リアルタイムの信号処理と低レイテンシ制御をサポート
・ GDXモジュール: 高速シリアル通信に対応し、Gigabit Ethernetを使用してデータストリーミングが可能です。これにより、大量のデータをリアルタイムでやり取り可能
・ タイミングモジュール: トリガーやインターロック、同期信号用の高速信号インターフェースを搭載
・ SFPコネクタ(Small Form-factor Pluggable): 光ファイバー接続により、データ伝送のために使用されます。これにより、高速かつ低レイテンシのデータ通信が可能
RF信号の処理:
・ 各モジュールは、最大5つのRF信号を同時に処理でき、1つの基準チャネルが測定用のリファレンス信号を提供
プロセッサ:
・ Intel Dual Core COM Expressを搭載し、高速の計算リソースを提供します。PCIeインターフェースを使用して低レイテンシの制御アルゴリズムとリアルタイムのデータ処理を実行可能
動作性能:
・ 信号レベルと精度: 最大-60 dBFSの信号レベルを処理可能で、サブミクロンレベルの位置精度と0.01度の位相精度を提供
・ タイミング精度: タイミングモジュールにより、同期、トリガー、インターロックを高精度で制御
このように、Libera Single Pass Hは、PCIeやSFPコネクタを使用した高速データ通信と、FPGAベースのリアルタイム信号処理により、直線加速器でのビームモニタリングと制御に最適化されたシステムです
ユースケース
Libera Single Pass Hは、直線加速器における重粒子ビームのリアルタイムモニタリングと制御に使用されるシステムです。主なユースケースを以下に挙げます。
1. 重粒子ビーム位置モニタリング:
ビームの位置と位相をリアルタイムで監視するために使用されます。16ビットの高解像度ADCと低レイテンシのデジタル信号処理により、サブミクロン精度でビーム位置を測定し、精密なビーム制御を実現します。
この機能は、ビームの精度が加速器の性能に直接影響する場面、特に医療用や研究用の直線加速器で重要です。
2. 加速器のビームフィードバック制御:
ビームのリアルタイムデータ(位置、位相)をフィードバックループに取り込み、ビームの安定性を維持するための制御を行います。特に、微細な調整が必要なフェーズにおいて、Libera Single Pass Hは重要な役割を果たします。
3. ビーム特性の分析と最適化:
複数のRF入力チャネルを使用して、加速器のビームの動作を分析し、システムの最適化を行います。これにより、ビームの精度向上や運用効率の改善に貢献します。
4. 高エネルギー物理実験:
高エネルギー物理実験において、ビーム位置や位相の測定が非常に重要な役割を果たします。Libera Single Pass Hは、その精度とリアルタイムデータ処理能力により、精密なビーム制御と軌道調整を支援します。
5. リニア加速器におけるビームのトラッキング:
リニア加速器では、ビームの動きをリアルタイムで追跡する必要があります。Libera Single Pass Hは、最大20の入力チャネルを使用して、ビームの位置と位相をトラッキングし、リアルタイムでデータを提供します。
これらのユースケースにより、Libera Single Pass Hは高精度なビーム制御と安定した加速器運用に不可欠なツールとして活躍しています。
パフォーマンス
Libera Single Pass Hのパフォーマンスおよびパラメータの整理
パフォーマンス
信号レベル [dBFS] | 測定ピーク [mV] | 典型的な位置RMS [μm] | 典型的な位相RMS [°]
0 dBFS | 1000 mV | 1 μm | 0.01°
-20 dBFS | 100 mV | 3 μm | 0.01°
-40 dBFS | 10 mV | 25 μm | 0.08°
-60 dBFS | 1 mV | 200 μm | 0.5°
システムパラメータ
入力チャネル数(測定用): 20チャネル(各モジュール4チャネル + リファレンスチャネル)
ADC解像度: 16ビット
最大ADCサンプリングクロック周波数: 130 MHzまで
モジュールごとのメモリサイズ: 最大8 Gbits
これらの仕様により、Libera Single Pass Hは、直線加速器での高精度なビーム位置と位相の測定に適したシステムです。
採用事例
Libera Single Pass Hは、以下の世界的な研究機関や加速器施設で使用されています。
・ ADS, CSNS – 高エネルギー物理学研究所(IHEP)、中国
・ FAIR – ヘルムホルツ重イオン研究センター(GSI)、ドイツ
・ FRIB – ミシガン州立大学/NSCL、米国
・ IMP-CAS, ADS, SSC Linac, LEAF, Sichuan – 中国科学院現代物理研究所(IMP-CAS)、中国
・ IPNO – イレーヌ・ジョリオ=キュリー研究所(IJCLab)、フランス
・ J-PARC – 高エネルギー加速器研究機構(KEK)、日本
・ KOMAC – 韓国原子力研究所(KAERI)、韓国
・ LANSCE – ロスアラモス国立研究所(LANL)、米国
・ SPIRAL 2 – フランスの重イオン加速器(GANIL)、フランス
・ 清華大学 – 清華大学、中国
これらの施設では、Libera Single Pass Hが高精度なビーム位置モニタリングおよび制御のために使用され、実験や研究の効率と精度を向上させています