概 要
Libera BLMは、ビームロス検出器からの信号を処理し、シングルエレクトロンから大規模なビームロスまでを高精度で検出するシステムです。8nsの高時間分解能と可変終端インピーダンスを特徴とし、微細な損失や大規模な損失の両方に対応します。最大4つのビームロス検出器を接続し、パワー供給やゲイン制御を行い、トリガーやタイミング信号との同期が可能です。
メリット:
・ 高精度検出: 単一電子の損失から大規模なビームロスまで対応
・ 柔軟なインターフェース: EPICS、TANGO、MATLABなどの多様な制御システムと簡単に統合可能
・ 自動データ処理: バッファモードとカウンティングモードでリアルタイム解析
・ 簡単な展開: コンパクトでポータブルな設計により、導入と運用が容易。
・ 低メンテナンス: 設置後のメンテナンスが不要で、信頼性の高い運用が可能
仕 様
Libera BLM (Beam Loss Monitor) のハードウェア仕様およびコネクタ仕様
◆ハードウェア仕様:
・ 入力チャネル数: 4チャネルのビームロス検出器を接続可能
入力周波数帯域:
・ 大信号帯域幅:約35 MHz
・ 小信号帯域幅:約50 MHz
・ 終端インピーダンス: 50オーム / 1 Mオーム(ソフトウェアで選択可能)
最大入力信号:
・ 50オーム:±5 V
・ 1 Mオーム:±1.25 V
・ A/D変換: 125 MHz、14ビット
電源供給: Power-over-Ethernet(PoE)で供給、
・ タイミング信号: 電気信号(3入力)
出力チャネル:
・ 4x 電源供給(最大 ±15 V)
・ 4x ゲイン制御(最大 +12 V)
ビームロス検出器(BLD)仕様:
・ 寸法: 約220 x 25 x 25 mm(ホルダーなし)
・ 重量: 約150 g(鉛カバーなし)
・ 動作温度: +10°C ~ +40°C
シンチレーター:
・ 素材: EJ-200(ガンマ線検出用)
・ 長さ: 100 mm
・ 直径: 約22 mm
フォトセンサー: Hamamatsu 10721-110
・ 供給電圧: 5 V (±0.5 V)
・ 入力電流: 最大 2.7 mA
・ ゲイン制御電圧: 最大 1.1 V
・ 応答時間: 0.57 ns
・ 暗電流: 1 nA(典型値)
・ ピーク感度波長: 400 nm
・ 寸法: 50 x 22 x 22 mm
コネクタ仕様:
・ メモリーカードスロット: データ保存用
・ シリアルコンソール: Micro-B USB
・ ネットワーク接続: RJ-45(1000Base-T Cu GbE接続)、Power-over-Ethernet(PoE)
・ USBスロット: 装置の拡張やデータ転送に使用
・ SMAコネクタ: ビームロス検出器との接続用
・ LEMOコアキシャルコネクタ: トリガー信号などのさまざまな信号のために使用
・ RJ-25 6/6コネクタ: ビームロス検出器の電源供給とゲイン制御用
◆セットアップ例:
Libera BLMは、最大4つのビームロス検出器に電力とゲイン制御電圧を提供します。各検出器は標準の50オーム同軸ケーブルを使用してBLMに接続され、検出器は電磁シャワーにさらされる場所に設置されます。ケーブルの長さは最大100メートルまで対応可能です。
これらのハードウェア仕様とインターフェースにより、Libera BLMはさまざまなビームロスシナリオに対応し、柔軟なシステム統合が可能です
ユースケース
Libera BLM(ビームロスモニター)のユースケースは、主にビームの損失を正確に検出・分析し、加速器の安全性と効率を高めるために使用されます。以下に具体的なユースケースを示します。
1. 加速器でのビームロス検出
Libera BLMは、ビームインジェクション中の大規模な損失や、通常運転中の**微細な損失(単一電子レベル)**まで幅広く検出します。これにより、ビーム損失の原因や位置を特定し、加速器の運転効率を最適化します。
2. ビームロスのリアルタイムモニタリング
最大4つのビームロス検出器を接続し、8 nsの高時間分解能でリアルタイムにビームロスを追跡できます。これは、ビームの安定性を確保し、損失が増加する際に迅速な対応を可能にします。
3. トリガー条件に基づくビーム損失のデータ収集
特定のトリガー条件に基づいて、ビーム損失データを収集し、損失の時間的な挙動や規模を把握します。このデータは、後処理やビーム軌道の調整に使用されます。
4. 加速器の安全性向上
Libera BLMは、ビーム損失の閾値を監視し、特定の閾値を超えた場合にはシステムにアラートを発し、即座に対応が取れるようにします。これにより、加速器の安全性が向上し、装置の損傷を防ぐことができます。
5. 偶然損失検出(Coincidence Loss Detection)
複数の検出器間で同時にビーム損失が検出された場合に、その損失がすべてのチャンネルで同時に発生したかどうかを確認します。これにより、損失の場所と原因をより正確に特定できます。
6. ポストモーテムデータの保存
大きな損失や異常が発生した際には、直前のデータがバッファに保存され、事故原因の分析に役立ちます。これにより、加速器の故障時の迅速な解析と対応が可能になります。
これらのユースケースにより、Libera BLMは、加速器運転中のビームロス管理を最適化し、運転効率を高めるための不可欠なツールとして活用されています
パフォーマンス
主なパフォーマンス指標:
高時間分解能:
・ 8 nsの時間分解能により、サブターンおよびインターパルスのビームロスを詳細に解析
短時間で発生する微小な損失を正確にキャプチャし、加速器内のビームロスに対するリアルタイムフィードバックが可能
多様な損失検出範囲:
・ 単一電子レベルの損失から、インジェクション中に発生する大規模な損失まで幅広く対応
・ 50オーム入力終端により、高い信号感度を実現し、サブミクロンレベルの精密なロス検出が可能
・ 高インピーダンスモードに切り替えることで、極めて小さな損失も検出可能
同時データ処理:
・ バッファモードとカウンティングモードの2つの処理方式を並行して使用可能
・ バッファモードでは、トリガーイベントに基づいて生データをキャプチャし、詳細な解析に利用
・ カウンティングモードでは、しきい値を超えた損失をリアルタイムでモニタリングし、指定されたパターンに応じたウィンドウを検出
複数検出器対応:
・ 最大4つのビームロス検出器を同時に接続し、損失データを解析。Coincidence Counting Modeでは、同時に検出された損失を確認し、より精度の高い検出結果を提供
高帯域幅:
・ 大信号帯域幅は35 MHz、小信号帯域幅は50 MHzまで対応し、さまざまなビーム損失状況に対応したデータ取得が可能
追加のパフォーマンス特性:
・ 最大入力信号: ±5 V(50オーム終端時)、±1.25 V(1 Mオーム終端時)
・ A/D変換: 125 MHz、14ビットの高精度A/D変換により、ビームロスのデータを高精度で処理
これにより、Libera BLMは加速器のビーム損失管理を最適化し、リアルタイムのフィードバックと損失データの蓄積によって、運用の効率と安全性を大幅に向上させます
採用事例
Libera BLMは、世界中の主要な加速器施設で使用されています。以下は、導入例です。
・ ALS – ローレンス・バークレー国立研究所(LBNL)、アメリカ
・ ANKA – カールスルーエ工科大学(KIT-FZK)、ドイツ
・ APS – アルゴンヌ国立研究所(ANL)、アメリカ
・ Australian Synchrotron – オーストラリア
・ BESSY II – ヘルムホルツ・ベルリン研究所(HZB)、ドイツ
・ C-ADS, CSNS – 高エネルギー物理研究所(IHEP)、中国
・ Diamond Light Source – ダイヤモンド・ライト・ソース、イギリス
・ ESRF – ヨーロッパ放射光施設(ESRF)、フランス
・ HiSOR – 広島大学シンクロトロン光センター、日本
・ Kaeri – 韓国原子力研究所(KAERI)、韓国
・ MAX IV – ルンド大学、スウェーデン
・ SACLA – 日本放射光研究所(JASRI)、日本
・ SESAME – 中東実験科学応用用シンクロトロン施設、ヨルダン
・ SLS, SwissFEL – ポール・シェラー研究所(PSI)、スイス
・ SSRF – 上海シンクロトロン放射施設(SINAP)、中国
これらの施設では、Libera BLMがビームロスの高精度な検出やリアルタイムモニタリングに活用され、加速器の安全性と効率を向上させています